ニューヨークの特殊事情
なぜニューヨークは特殊なんでしょうか。ニューヨークはみんなが目指す最終地点なのです。
ニューヨークはおそらく世界で一番厳しい環境ではないかと思います。世界中から才能のある人間がやってきます。後から後から止めどなくやってくるわけです。ニューヨークはまさに究極のゴールというわけです。
特にファッションに関してはそれが顕著です。ニューヨークで活躍しているファッション写真家の有名どころはヨーロッパ人が圧倒的に多いんです。
ヨーロッパにはどの国にも結構な数のファッション雑誌があります。自分の撮った写真が実際の雑誌に印刷されたものを英語では tear sheet(テアシート)と言います。ニューヨークで売り込む時にこのtear sheetは絶大な威力を発揮します。ニューヨークで作品集をまとめたとしても tear sheet が含まれているわけでもありません。前にも行ったように、ニューヨークのファッション雑誌は数が少なく入り込むのは至難の技です。
ヨーロッパのイギリスやフランス・イタリアなどの有名雑誌で仕事をしてきたカメラマンはtear sheetをたっぷりひっさげてニューヨークに乗り込んでくるというわけです。ニューヨークでスタートしようとする我らは太刀打ちできるはずもありません。テアシートで埋められた作品集は格段によく見えます。
よく見えると同時に自分の仕事の実績として見せることができます。どれだけ自分がプロフェッショナルかということを見せられるわけです。ニューヨークのアートディレクターも所詮は雇われ人です。ニューヨークの厳しい環境でアートディレクターの地位を獲得するまでにはかなりの苦労があったはずです。無数のアートディレクターも存在するわけです。彼らも自分の仕事を失いたくはありません。わけのわからない若者に大きな仕事を任せることはできないのです。
このニューヨークは本当に弱肉強食の世界なのです。
ニューヨークで若者が有名になる確率はかなり低い
もちろん私の言ってることが全てではありません。人それぞれです。中にはニューヨークでも小さな仕事から初めて、徐々に大きな仕事にたどり着ける者もいるでしょう。実際にニューヨークで始めて、ニューヨークで有名になったカメラマンはいます。でも、時代が変わり、様々な要素が変わってきます。確率はゼロに近いでしょう。ニューヨークには若者が入り込む土壌がありません。
カメラマンは使われないと有名になれません。機会をもらわないと有名にもなれませんし、上達もしません。カメラマンとはそういうものです。ニューヨークでも卓越した個性と貴重な人脈を作れたものはチャンスがあるかもしれません。
でも、私にはあの時点でそれだけの個性と人脈がありませんでした。ニューヨークはあまりにも若手が入り込む機会が限られています。ニューヨークで全くのゼロからのし上がっていくのはほとんど不可能だと言えると思います。
将来の可能性のために一大決心を
このままニューヨークで小さな仕事ばかりをしていくのか。何年か経てば大きな仕事が舞い込んでくるチャンスをもらえるのだろうか、、。私は毎日のように自問自答を繰り返しながら将来のことばかりを考えていました。
私はスタジオを開設してから1年ほどこういう生活を送っていました。将来を見据えて大きな決心をしなくてはならない時が刻一刻と迫っていたことにまだ気づいてはいませんでした。